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  精霊探偵
   クイズ編

 『記憶を食べた少女』

 
その日はけだるい暑さだった。
まなみは店番の休憩中に響子と談話していた。ちょっと前に出会った男の子で気になる子がいるのだ。
好きと言えるほどの気持はないけれど、もう少し近づきたいなとは思ってる。その具体的なアドバイスを響子にそれとなく相談していた。
「文化祭に来ていた他校の生徒さんね。どこの学校に行ってるのか聞いた?」
「はい。彼のグループと一緒にお茶した時にいろいろと。携帯の番号も教えてもらったんですけど、まだ電話してなくて」
響子はまなみの目をじっとのぞきこむ。
「それは駄目よ。なんだったら今すぐここで電話しなさい。恋のチャンスは逃がすと取り戻せないわ。悩む前に行動あるのみ」
「え、でもそれは急過ぎます。私としてはもうちょっと時間をかけてゆっくりとお互いを知りあいたいなと・・・」
もじもじとまなみは答える。まだ自分でも恋だとは思っていないのだから当然だろう。年齢差のある響子とは違うのだ。
しかし響子はお構いなしに意見を押し付けてくる。
「そんな事を言ってるから後で後悔してしまうの。いいこと?人生は思ってるほど長くないわ。その中で恋の出会いなんて数えるほどしかない。その貴重なチャンスを無駄にするなんて、お金をどぶに捨てるより悪いことなの。絶対にアタックするべきよ」
響子の声にはなぜか悲壮な感じが漂っている。何か過去に経験があるのだろうか。
まなみは響子の迫力に押されて動けなくなっていた。とそこへいきなり店の扉を開けて一人の女性が入って来た。
実は店番をしていて客を見るのは初めてだった。すぐにまなみは声をかける。
「いらっしゃいませ」
その女性はまなみと響子の顔を見るなり、こう言った。
「あの、誰か私のことを知りませんか?」
 
 

 

 

 
女性はみたところ高校生くらいだろうか。
大人びた雰囲気はあるけれど顔立ちや言葉にはまだ幼さが残っている。
まなみはその子をさっきまで自分が座っていた椅子に座らせ、紅茶を目の前に置いた。
「ありがとうございます」
服装はどこにでもありそうな感じだ。顔色が少し悪いものの、前髪をナナメにヘアピンで止めた、一見ごく普通の女の子。
不安そうに握りしめられた両手から、小さな紙切れが覗いている。
 
「あなた、記憶が無いのね。何か覚えてる事はあるの?」
響子が女の子の前に座っていろいろと聞いている。
だけれども、ほとんど何も覚えていないと言う。
 
「気がついたら全然知らない街にいました。と言うよりそれ以前の記憶が無いから知らないだけなのかもしれないし分からないんです。自分の事も家族や友人や知り合いを誰一人思い出せなくて。服のポケットの中を探しても何も出てこなくて。唯一持っていたのがこれでした」
そう言って女の子がテーブルに置いたのは、握りしめられてしわになっているこの店の名刺だった。
「これを持ってるってことは、記憶を無くす前の私と何か関係があるんじゃないかって思って。それで人づてにここの場所を教えてもらいながらやっとたどり着いたんです」
響子もまなみももちろんこの女の子を知らない。それが分かった時、女の子は泣き出してしまった。
まなみは女の子の肩に手を置いて優しく諭した。
「大丈夫よ。心配しないで。絶対にあなたの事を知ってる人はいるわ。まず警察に言って事情を説明しましょう」
まなみがそう言うと、女の子は少し落ち着いた。
「はい。でも、誰も私の事を探していなかったらと思うと不安で・・・。ちゃんとみつかるんでしょうか」
そう言われるとまなみも自信がない。警察は家出や身元不明の人物をきちんと探してくれるのだろうか。
はかない希望を打ち砕くような言葉が響子の口から洩れた。
「ちょっと無理かもね。警察って重大事件以外には真剣に動いてくれないって草壁が言ってたわ。下手すると一生施設に入れられるかも」
それを聞いてまた女の子は泣き出した。
「ちょっと、響子さん。それはいくらなんでもひどすぎます」
まなみが抗議したが、響子は受け入れない。
「根拠の無い希望を持たせてはいけないの。厳しい現実を見据えて、その中から確実な情報を得てたどっていくのが最も堅実な方法なのよ。それがこの子には最も良い選択肢だわ」
その顔は真剣だった。たぶん、占い師をしていた時もこんな感じだったのだろう。
泣いてる女の子に響子は声をかけた。
「どんなことでもいいから思い出してみて。あなたの過去につながる出来事や記憶、それがあればたどることが出来るはず。自分の記憶を取り戻したければ自分で行動するしかないわ。」
そっと女の子の手を握る。そう言われて女の子は泣くのを止めた。
「わかりました。ひとつだけ覚えてる事があります。コーヒーの香りです」
「コーヒー?」
響子とまなみは同時に声を出していた。
「はい。かすかなんですけど、気がついた時にコーヒーの香りが服に残っていたんです。とっても深く香ばしいコーヒーの香りでした」
響子が眉間にしわを寄せる。
「それだとこの店は関係ないわね。ここにはコーヒーが無いから」
ちょっと考えてからまなみが言った。
「直前まで喫茶店にいたとか。だとしたら誰かと一緒だった可能性もありますよね」
 
 

 

 

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