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  精霊探偵
   プロローグ

 Act3.ファーストコンタクト

その日の夜。
まなみは自宅の部屋で寝る準備をしていた。
家に戻るとご飯を食べてお風呂に入り、いつもどおりに寝る時間になる。
髪を梳かしながら、どうしても石を入れたカバンが気になってしまう。
ちらちらと後ろを振り返り、テーブルの上に置きっぱなしにしてあるカバンを見る。
「なんてことないわ。さっきのも気のせい」
そう言い聞かせるのだけど、店で感じた脈動がまだ手に残ってる。それを振り切るようにさっさとベッドに入った。
「明日も早いんだから。もう寝ること」
リモコンで電気を消すと目を閉じた。無理やり寝ようとするのだが、どうにも神経が高ぶって眠れない。
ごろごろとベッドの中で寝返りをうっていたが、ついに起き上がる。
「もう、仕方ない」
もう一度電気を点けてカバンを開けた。中から石を取り出す。
手のひらに乗せて良く見る。特に変わったところは無い。
「あなた、本当に雨が分かったの? だったら私にも何か教えてよ」
しかし石は沈黙したままだ。まなみはふうっとため息をついた。
「当たり前よね。石がしゃべるわけないし」
そういって石をテーブルの上に置くと再びベッドにもぐりこんだ。
しばらくいろんな考えが頭の中を廻っていたが、いつの間にか眠りに落ちていた。 

 

 

「・・・・。・・・・。!!」
遠くで誰かが呼んでいる。私のことみたいだけど、私はそんな名前じゃない。
「・・・ム。おきて。ジュリアム」
誰だろう。すごく近いところにいるように思えるんだけど、声はとても小さい。
「ほうっておいて。私は眠いの」
無意識に手を振って相手を振り放そうとする。声のする方へ腕を振った。しかし何も感じられない。
「君が僕を呼んだんだ。だから僕はここに来た。さあ起きて僕と話をしよう」
まなみはゆっくりと目を開ける。ここは何処だろう。辺りは真っ白だ。
「やっと起きてくれたね。まずは一緒に歩こう。こっちへおいで」
「待って。あなた誰なの? 声は聞こえるけど姿が見えないの」
声の主は笑ったようだ。
「ここだよ。君の足元を見て」
そういわれて視線を足元へ落とす。まなみは自分の足が霧に包まれて良く見えなかったが、その霧の中を何かが走り回ってるのが見えた。
「何、ねずみ?」
すると突然霧の中から何かがぶあっと飛び上がってまなみの目の前に現れた。
まなみは思わず叫んでいた。
「きゃ!!」
それは何と小さな竜だったのだ。
良くお寺や屏風絵に描かれている龍ではなく、ヨーロッパで言うところのドラゴン。トカゲに羽の生えた格好をしている。
竜は空中にとどまりながらまなみをじっと見ている。まなみは腰が抜けて起き上がれない。口をパクパクさせて竜を見ていた。
「これが僕さ。水と隠された財宝の守護、水竜族マルディーンの息子、ムガルだよ」
「竜がしゃべってる・・・」
それを聞いてムガルは大声で笑った。
「当たり前さ。竜は賢いんだ。どんな人間の言葉でもしゃべることが出来る。それどころか動物や植物の声だって聞くことが出来るんだよ」
ようやく落ち着いたのか、まなみはしげしげとムガルを見た。
背の高さと言うか全長は1.6mくらいで、おなかの部分がぽってりとせり出してる。すべてが青いうろこで覆われている。
全身はトカゲと言うのがぴったりだろう。羽が無ければ普通にトカゲとして通用する。
目は大きく、まるで人間のようだ。口は大きく裂けて牙も見えるが、それほど長くない。
ムガルはじっとまなみを見ている。その瞳は深い知性を湛えていた。
「本当に竜なのね。驚いたわ。まさか存在したなんて」
ムガルは空中でくるりと輪を描いた。すぐにまなみの前に戻ってくる。
「僕たち竜族は人間の世界に現れることは殆ど無いから知らないのも無理は無いよ。でもずっと昔から人間とは共存してきたんだよ」
声はとても若い。この竜はまだ子供なんだろうか。
「ねえ、あなたの他に竜はいるの?」
「もちろんさ。何千、何万っているよ。ただし、遠くの世界にいるからすぐには会えないけどね」
そのとき、まなみは昼間のことを思い出した。
「もしかしてあなた、石の中に住んでるの?」
「住んでるってわけじゃない。あちこち移動はしてるけど、よくいる場所があの石の中だよ」
やはり。響子はムガルの声を聞いて雨を知ったのだろう。
「響子さんに雨を知らせたのもあなたね」
ムガルは笑ったようだ。
「竜と雨は切っても切れない縁があるからね。特に僕たち水竜族は水を司っている。雨がいつ降るのかなんてすぐに分かるんだよ」
すっと浮き上がり、ムガルはまなみの頭の上でとぐろを巻いた。尻尾をぱたぱたと振っている。
まなみはムガルを見上げて言った。
「良かったら私にも教えて頂戴」
「いいよ。何が知りたい?」
「そうね・・・。今度は何時雨が降るのかってのはどうかしら」
それを聞くとムガルは目を閉じて考える。
「えっと、二日後の午後4時過ぎに少しだけ雨が降るよ。そのあとしばらくは無さそうだな。一週間以上晴天が続く」
まなみはさっき呼ばれた名前のことを思い出した。
「私のこと、さっきなんて呼んでいたの?」
「ジュリアムだろ。それがどうかした?」
「私、まなみって言うのよ。そんな名前じゃないわ」
ムガルはまなみの前に下りてきた。
「そんなはずは無い。君はジュリアムだよ。だって・・・」
急にムガルの声が遠くなり、周囲の景色が崩れだした。
「何? どうしたの?」
遠くからムガルの声が聞こえる。
「君の目が覚めるんだ。早く石の声を聞こえるようになってくれ。そうしたらいつでも話が出来るよ」
まなみは光に包まれた。
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