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ホーム 響子の過去

 

  精霊探偵
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 Act2.響子の過去

秋も深まったある日、フリークストーンの店内で響子とまなみがお茶を楽しんでいた。
「この前はありがとうね。助かったわ」
響子は紫色のスーツを着ている。ワンレンの長い髪と知的な雰囲気を醸し出す眼鏡、くりっとしてつぶらな瞳は、黙っていればかなりレベルの高い美女として通用するだろう。
しかしいったんしゃべりだすとわけのわからない独特のオーラと解読不可能な言葉の羅列に圧倒されてしまう。
もし響子を口説こうとする男性がいたとしたら(この言い方は店長に対して不遜だけど)、かなりの根性を決めてこなくてはいけないのではないだろうか。
まなみはいつも響子のギャップをその部分に感じていた。
「いえ、簡単なお使いですから。それよりこのケーキ、美味しいですね」
二人の目の前には響子が買ってきたケーキと紅茶がテーブルの上に置かれている。たまに二人で休憩時間をこうやって過ごしているのだ。
「でしょう~。駅前にあるお店なんだけど、一度食べたら病みつきになっちゃって。ひどい時は一日に3回も同じケーキ食べてたわ。このマロンの味付け、最高なのよ~」
女性は概して甘いものを食べてる時は至福の表情をするが、響子は一口食べるたびに全身を震わせて喜びを表現する。二人だけだから良いけれど、外でも同じことをするなら同行するのは遠慮したいと思わせる喜びっぷりだ。
響子はいったい何歳なんだろうか。
最初に会った時は30過ぎくらいかなとも思ったけど、実際はもっと上なのかもしれない。しかし見た目だけで判断するなら20代後半と言っても詐欺にはならない。
まなみは草壁探偵事務所に行ったあと、響子と草壁の関係について考えていた。
二人とも同じくらいの年齢か、草壁の方がやや年上だと思う。
いったいどういうつながりなんだろうか。
昔、付き合っていたとか。草壁は仕事を一緒にしたことがあると言っていたし。
響子に聞いてみようかなとも思うけど、聞いてはいけないのではとも思う。こういう事ってデリケートな問題だから状況を見て聞いてみようと考えていた。
まなみはまだ男性と付き合った事は無かったけど、好きな人と一緒にいたい気持ちは理解できる。
この二人の過去にはどんな出来事があったんだろうか。かなり興味津津だ。
 
「あそだ。草壁ってどうだった?」
いきなり響子から聞かれてまなみはどきっとした。
「え、あの~、ちょっと背の高い線の細そうな男性って感じです。あんまりそういうのって分からないんです」
それを聞いて響子は笑った。
「いやだ、まなみさん。違うわよ。箱の説明してもらったんでしょ」
それを聞いてまなみは真っ赤になる。
「あ、すみません! そんなつもりはないんです。」
あわてて謝るまなみを見て響子が手を振った。
「いいのいいの。心配しなくても私とあいつには何の関係もないから。ちょっとした縁で時々仕事してるだけ。付き合いは長いけどね。もうかれこれ10年以上になるわ」
足を組みなおして響子はちょっと遠い眼をした。小さな笑みを口端に浮かべる。
 
「きっかけはね、あいつがいきなり私の目の前に現れたの。私がこの店を始める前。街頭で占い師をしていたころよ。おまえはなんでこんなところにいるんだって言うのよ。初対面の人間にそんな事を言うから、てっきりネジの緩い人かと思っちゃったわ」
 
響子にそう思われるとしたら相当なものだろう。
どちらかと言うと草壁の方がまともそうだけど。
「あいつね、私の占いは人を不幸にするって言うの。なぜってあまりにも当たり過ぎるから。人は占いに頼って生きるようになってしまっては終わりだ。だからすぐにこんな商売は止めるべきだって路上で叫ぶんだから。馬鹿でしょ」
 
その当時の事を思い出しているのだろうか。響子はあらぬ方向を見ながらしゃべっている。
「でもそれを聞き入れてしまうんだから私も変わってるわよね。占い師を辞めて石のお店を始めたのもあいつの影響。まあ、パトロンがいたから出来たことだけど」
まなみの心臓がどくんと激しく鼓動した。
「パトロンって、あの、あれですか・・・」
この時、まなみはかなり強烈な妄想モードに突入していた。響子のパトロンをするのだから、相当年配で人には言えないような事を強要するのではないか・・・。
 
その妄想を打ち破るように響子が告白した。
「私ね、早くに親を亡くしてるの。ずっと私を支援してくれたのは父方の叔父。親戚は多かったけど、助けてくれたのはその叔父一人だけだったわ。
まだ小学生だった私を残して両親は交通事故で亡くなった。葬儀の準備や保険金の問題やらすべてを叔父様一人がしてくれたの。そして私が独立してお店を持ちたいって言った時、今までずっと私のために残しておいてくれた両親の遺産を渡してくれた。普通ならねこばばしてもおかしくないのにね。
すっごい几帳面で律義で、それでいて優しい人だったの」
勝手な妄想をしていたまなみは自分がとても恥ずかしくなったが、語尾の過去形に気づいて聞く。
「今、叔父様はどうされているんですか?」
響子はにこっと笑う。
「去年、亡くなったわ。病気でね。私がこの店を出してすぐに体調を崩して。病院で検査した時は手遅れ」
「お気の毒です」
本心からまなみは言った。
「ありがとう。親戚にはさんざん悪口言われたわ。私が負担をかけたから叔父が病気になったとか。特に叔母さんは昔から私の事を目の敵にしていたから、ここぞとばかりにいろんな事を言われたけど」
「そんな。だってお店を出せたのはご両親の遺産のおかげです。叔父様は管理していただけじゃないですか。それを響子さんのせいにするなんてひどいです」
「それだけじゃないのよ。なぜ叔父が私の面倒を見ていたのか、なぜあんなに優しかったのか、その理由を知らされたの」
少し間をおいて響子は口を開いた。
「私の母と叔父は昔、付き合っていたらしいの。だけど家庭の事情で結婚できなかった。父と母が結婚したとき、母はすでに私を身ごもっていたんだけど、叔父と別れてすぐだったから。意味は分かるでしょ」
「響子さんの本当の父親は叔父様だって事ですか?」
響子は首を振った。
「本当のところは分からないわ。母は知っていたはず。どちらが本当の父親かって。親戚はみんな疑っていたけどね。叔父は子供がいなかったし、自分の愛した女性の子供だから私を可愛がっただけかもしれない。もう今となっては永久に解決出来ない謎ね」
とても悲しいような、でも温かさを感じる話だ。まなみはじっと響子を見る。
「もし本当のお父さんで無かったとしても、叔父様は響子さんの事を愛していらしたんだと思います」
それを聞いて響子は笑う。
「そうね。私もそう思うわ」
窓の外が急に暗くなる。すぐにぽつぽつと雨が降り出して来た。
「雨って憂鬱な気分になる人が多いわ。でも私は雨が好き。心に溜まった澱をすべて洗い流してくれる気がして」
「そうですね。私も雨は好きです」
二人は天から落ちてくる雨粒を見つめていた。
「そう言えば、どうして響子さんは雨が降るって知っていたんですか?」
まなみに言われて響子が怪訝そうな顔をする。
「草壁さんの所に荷物を届けた時です。ここを出る時は晴天だったのに傘を持たせてくれたでしょ」
「ああ、あのときね」
すっと立ち上がって、響子は戸棚にあった一つの石を持って来た。
「この子が教えてくれたの」
それはシトリンのカットストーンだった。
小ぶりで掌に収まるほどの大きさだが、何かしら存在感は十分に感じられる。
「石ですか?」
まなみは手に持ってみた。
店番をしてる時もたまに手に持つことはある。でもそれはあくまで掃除のためであって、こうやってしげしげと見るのは初めてだ。
うすい黄色が透けて見えるが、内包物は少なく、水晶と言っても通じそうだ。薄く小さな針もあるのでルチルとしても間違いではない。
「石ってね、とっても不思議なものなのよ。人間よりずっと古くから存在してるでしょ。さまざまな石の種類があって、石ごとに違う力を持ってるの。宝石とかもそうだけど、人間はいろいろな石を生活のために使ってきた。時には武器として、時には薬としても使った。占いや呪いにもね。石と人間の関係は切っても切れない」
まなみは響子の説明を聞きながら、手に持ったシトリンがまるで脈を打ってるかのような錯覚を感じた。それは脈動する心臓のような感触だったのだ。
「きゃ!」
驚いて放り投げてしまう。それを見て響子が落ちたシトリンを拾い上げた。
「ご、ごめんなさい。何か変な感じがしてびっくりしてしまったから・・・」
謝るまなみを響子はなだめる。
「いいの、よくあるから。たぶん、石がいたずらしたんだと思うわ」
それから響子はちょっと上を見ながら考える。腕組みをして、左手の人差し指を顎にあてた。
「そうね・・・。口で説明するより実際に体験する方が早いわ。最初にお店に来た時のように」
そう言われてまなみはどきりとした。あの時の体験をもう一度するんだろうか。
表情からまなみの不安を読み取った響子は心配ないと言う。
「あんな事は外では起きないわ。この石を貸してあげるから。今日の夜は一緒の部屋に置いてあげてね」
 
 
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